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丸谷才一氏を悼む

 丸谷才一氏が逝去した。博覧強記という言葉がこの人ほど当てはまる人は依然にも以後にもいなかったのではないか。ぼくは熱心な読者ではなかったけれど、10冊程度の書物にはずいぶん教えられ、刺激された。(もっとも、それは読後限りで、次のアクションへと向かわなかったけれど)
 永井荷風作とされる『四畳半襖の下張』が雑誌『面白半分』に掲載され、猥褻ということで摘発された。ある活動組織が資金源獲得のためにコピーしたという薄くて小さいものが、幾つもの手を渡ってぼくの手元に届いて、読んだ。どこがいいかもわからなければ、騒ぐほどの猥褻さも感じなかった。
 その裁判に、弁護士では文学的素養がないということで、丸谷が特別弁護人になり、吉行淳之介、開高健、井上ひさし、五木寛之等の作家に法廷で質問した。そのすべてのやりとりを『面白半分』は臨時増刊号に出した(この根性が、おそらく『面白半分』の神髄だったのではないか)。それは今まで読んだどんな文学論よりも面白かった。以後、オリンピックの間隔程度で彼の本を買っては、読んだ。チビチビではあるが、ぼくも少しはわかるようになっていったのだと思いたいが、ぼくは齢を重ねるほどに、丸谷の偉大さを感じるようになっていった。彼が『6月16日の花火』を書いたからこそ、ぼくはアイルランドに行くのをその日にしたのだ。

 お疲れ様でした。あなたの残した業績は広く、深く、面白い。人生を愉しみ、文学を楽しむ達人のご冥福を祈ります。

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