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エリアム・クライエム『負傷者16人』を読む

 マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや

 寺山の短歌。下の句の「身捨つるほどの祖国はありや」が胸を騒がせて記憶の片隅に住みついた。『右であれ左であれ我が祖国』という小説のタイトルも思い出した。人は場所を選んで生まれることはできないから、生まれた場所によって背負うものが違う。

 アムステルダムのパン屋が舞台。パン屋は自分がユダヤ人であることを隠して生きてきた。ひょんなことで助けた男はパレスチナに生まれたアラブ人。時にひれったく思うやり取りの部分もあるが、ラストで、それがすべて必要だったことがわかる。
 ヤン・コットは『ハムレット』論の中で、『ハムレット』はスポンジのように時代を吸収する、と、書いていたように思うが、演劇の能力はそこにこそあると思う。ただ愉快な時間を過ごすのもいい。何かを考えさせられるのもいい。テレビドラマは自分を見失っているように思えてならないが、それでもやっちまう。舞台のシビアさはない。だから「何なんだ!」と思う作品が放送される。演劇よりはるかに多くの「観客」を相手にするなら、もう少し熟慮が要るんじゃないか。
 こういう芝居があること自体が素晴らしい。国立劇場で上演されたようだが、観たかった。演劇は個人レベルでしか発信できない。だから弱いんだけれど、だからこそ発信できる部分が多い。今のテレビ局にこういうドラマを作らない、作れないことが問題じゃないかと思う。

 

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